「その油をかえなさい!」著内海聡/書評・要約

油といえば、高カロリー、高コレステロールで肥満・病気の原因という印象がありますよね。

  • 料理を美味しく作るためには油は必要だが、健康のためには油は不要!
  • なるべく油を取らないような食生活をすることが健康への第一歩!

そのため上記のように考えている人も多いと思います。

しかし本書「その「油」をかえなさい!」(著 内海聡 あさ出版)ではそのような考え方はまったくの誤りだと指摘しています。それどころか油は人間にとって不可欠なもの、健康になるためには油をしっかりとることが重要だと述べます。

要旨

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そのうえで、体に重要な油だからこそ、よい油を選ぶことが重要。悪い油をとると逆に体にダイレクトにマイナスのインパクトがある。

とくに悪い油はトランス脂肪酸。トランス脂肪酸は保存しやすいように人工的に作られた油。マーガリンやマヨネーズ、またはさまざまな加工食品に含まれています。

このトランス脂肪酸は心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、肥満などさまざまな病気の原因になり、すでに欧米ではトランス脂肪酸の使用が規制されています。アメリカでも2018年までに食品添加物への使用を全廃すると米食品医薬品局(FDA)が発表しました。(日本は未規制)

またトランス脂肪酸など油の種類ばかりではなく、高温処理された油(つまり出来合いの揚げ物)、添加物が入った油は同様にさけるべきといいます。

逆に積極的にとりたい油として、オメガ3系の油が挙げられます。例として魚油、アマ二油、えごま油があげられます。現代人はオメガ3系の油の摂取量が少なく逆にオメガ6系の油(サラダ油など)が多い傾向にあります。

オメガ3系は細胞膜を柔らかくする作用が、オメガ6系が細胞膜を強固にする働きがあり、オメガ6系の油が多いとアレルギー反応を起こしやすくなります。花粉症やアトピーに悩む方は特にオメガ6系の油を少なくして、反面、オメガ3系の油を増やすべきだと述べられています。

各論ピックアップ

本書の中でとくに興味を引いた部分を詳細に紹介します。必要に応じて私が説明を加えているところがあります。

油は体を作る。

4169aae2d63070078f6f180b4e49bf62_s油は細胞膜やホルモンを作る材料で、体に取ってなくてはならないものです。体の大部分はたんぱく質と脂質でできています。つまりいい油をとることはいい体を作ることにつながります。

また一部のビタミン(脂溶性ビタミンといわれるA.D.E.K)を吸収する際にも必要になってくきます。いくら野菜をとっても油がなければせっかくのビタミンを体内に吸収して使うことはできません。

また脂質は糖質よりも持続性の高いエネルギー源になります。以前は脳のエネルギーは糖質のみといわれていたのですが、最近では油が肝臓でケトン体をという物質に変換され、それが脳のエネルギーになることもわかっています。

油は太るは間違え

確かに余分にとった油は脂肪として蓄積されて、肥満の原因になりますが、糖質に比べて油はエネルギーになる以外にも、活躍の場が広く体のさまざまな部分で使われます。糖質はエネルギーとして使われなかったものはすべて脂肪に転換されるのに対して、肥満の原因になりにくいといえます。

さらに糖質のようにインスリンを分泌することがないので糖尿病になることもありません。エネルギー源としても糖質よりも脂質のほうがすぐれているといえます。

飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸

脂質はまず飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分かれます。脂肪を構成している脂肪酸は炭素原子と水素原子が結合してできています。このうち炭素と水素がぴったりくっついているのが飽和脂肪酸、2重結合といって一部、炭素が水素とくっつかないで炭素同士で結合しているものを不飽和脂肪酸といいます。

飽和脂肪酸のようが、原子同士の結合が強く融点が高いのが特徴です。つまり常温で固体を維持できるというわけですね。その反面、不飽和脂肪酸は2重結合の分だけ、原子同士の結合が弱く融点も低いのが特徴です。

2重結合部分が多くなればなるほど原子の結びつきが弱く、その分熱や酸にも弱くなり劣化しやすい油になります。

つまり飽和脂肪酸は不飽和脂肪酸に比べて酸化(劣化)しにくい特徴が生まれてきます。

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図引用:食品成分最新ガイド 栄養素の通になる 第2版

多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸

不飽和脂肪酸は多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸に分かれます。これは炭素同士の2重結合部分が一つあるのが一価不飽和脂肪酸、二つ以上あるのが多価不飽和脂肪酸になります。一価不飽和脂肪酸の代表例としてオリーブオイル、多価不飽和脂肪酸としての代表例が私たちが通常使っているサラダ油があります。

オメガ3とオメガ6

多価不飽和脂肪酸はさらにオメガ3系とオメガ6系に分かれます。これは炭素の2重結合が、炭素の並びの何番目に生じているかの分類です。3番目に2重結合が生じている脂肪酸をオメガ3系、6番目に生じている脂肪酸がオメガ6系です。

オメガ3系にはえごま油、アマニ油、魚油があり、オメガ6系にはサラダ油、大豆油、ヒマワリ油などがあります。

両方とも細胞膜を構成する重要な成分ですが、その働きは正反対に作用します。

◆オメガ3系の効果

血管拡張作用、血栓抑制作用、炎症抑制作用、アレルギー抑制作用など

◆オメガ6系の効果

血液凝固作用、血栓促進作用、炎症促進作用、アレルギー促進作用など

つまりオメガ3系は細胞膜を柔らかくして体液の循環を良くする作用、オメガ6系は細胞膜を強固にして外敵から体を守る作用があります。どちらも重要な役割があり、どちらか一方を取ればいいというわけではありません。バランスが重要というわけです。

しかし現代人はオメガ6系を多く取りすぎている現状があります。私たちが通常使う油の多くはサラダ油であり、普通の食生活をしていると自然とオメガ6系を多く取ってしまいます。

オメガ3系とオメガ6系の摂取量のバランスは1対4か1対3といわれていますが、現代の一般的な日本人は1対10や1対20の割合でオメガ6系を多くとっている現状があるのです。

だから積極的にオメガ3系を取っていかなければ、そのバランスが保てないというわけです。

トランス脂肪酸は危険

トランス脂肪酸は植物油に水素添加をした人工油です。不飽和脂肪酸は炭素同時の2重結合が存在し、原子結合が飽和脂肪酸よりも不安定です。そしてこの2重結合している部分の炭素は酸素と結びつきやすく、酸化(劣化)しやすい特徴があります。

そのため、人工的に水素添加をすることで2重結合部分の原子の結びつきを強めることをしたのです。通常、二重結合部分が生じてる炭素はそれぞれ同じ方向に水素と結合しています。

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トランス脂肪酸は水素添加をすることで、二重結合部分の水素結合を反対側にしたものです。

トランスとは横切ってという意味で、脂肪酸の場合では水素原子が炭素の二重結合をはさんでそれぞれ反対側についていることを表しています。

トランス脂肪酸をとる量が多いと、血液中のLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)が増えて、一方、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)が減ることが報告されています。

引用:農林水産省 すぐわかるトランス脂肪酸

トランス脂肪酸は動物性油よりも安価で手に入ることができ、さらに劣化しにくいという特徴があるため、大量生産に向いている油です。結果、多くの食品でこのトランス脂肪酸が使われるようになりました。

しかし、このトランス脂肪酸は人工的に原子結合を強めた油であり、人間の身体はこれを利用することができません。利用できないということは摂取したトランス脂肪酸はどんどん体の中にたまっていってしまうということです。

トランス脂肪酸は「ファットスプレット」「ショートニング」「水素化油脂」の成分表示されます。また「植物油」や「植物油脂」などの表示で添加されている場合もあります。

トランス脂肪酸含有食品の代表例はマーガリン。たしかに「ファットスプレット」の表記がありますね。

高温調理で油は劣化!高温に強い油はオメガ9系

常温時に液体で存在している不飽和脂肪酸は原子構造が不安定で変質しやすいのが特徴です。そのため熱にも弱く高温処理すると酸化して体に害のある油に変質してしまいます。

とくにオメガ6系のリノール酸を摂氏200度以上で加熱すると有毒なヒドロキシノネナールという物質が発生することがわかっています。ヒドロキシノネナールはアルツハイマーや認知症の原因の一つとして数えられている物質で体内にはいると神経細胞を次々に壊してしまいます。

参考:東洋経済オンライン

油は本来生で食べるのが理想ということです。ただし調理の必要性もありますから、できるだけ熱に強い油を使うべきです。比較的熱に強い油はオレイン酸に代表されるオメガ9系の油です。オレイン酸の保有量が高い油はオリーブオイルや菜種油、アボガドオイルです。

質の悪いオリーブオイルに注意

ID-10017101健康にいいといわれているオリーブオイルですが、一方でその危険性も指摘されています。血液をサラサラにする作用や血栓抑制作用があるとされている一方、動物実験レベルでは発がん促進作用などが指摘されています。

メリットもあればデメリットもあるということです。健康にいいからと言って取りすぎには注意が必要です。質のいいものを適量とるという考え方が重要です。

またオリーブオイルには質の悪いものが売られています。エキストラバージンオイルとはバージンオイルの最高峰の品質を持った油のことです。

バージンオイルとは「オリーブ果実から機械的または物理的な方法のみで得られたオイルで、温度条件を含めてオイルになんらかの変質を起こすような条件下での処理や、洗浄、沈降、遠心分離、濾過以外の処理も許されない」を言います。

つまり、簡単にいうと熱処理を加えず、ただ絞っただけの新鮮な油。その中でも最高峰の品質がエキストラバージンオイルです。

しかし日本では法的に規制されているわけではないので、その工程過程によらずともエキストラバージンオイルのラベルを付けることができます。中には高温処理されたものや添加物が混ざった体に悪いものも含まれているので注意しましょう。

本物を見極めるポイントは「低温圧搾」「一番搾り」という表示が参考になります。またペットボトル入りにオリーブオイルは質の悪い場合が多いので避けることが賢明でしょう。

「低温圧搾」「一番搾り」の表記があるオリーブオイル

加工肉には注意

ID-100346901加工肉とはソーセージやハム、ベーコンといったものです。加工肉には大量の添加物が入っている場合が多く、その場合体に有害になります。

また「減塩」をうたった加工食品が増えているため、塩を使わず保存期間を延ばすためにさらに大量の添加物を加えるという構造があります。

最近、WTOが加工食品における発がん性リスクについて発表があり、世間を騒がせたばかりですね。加工食品その野のが悪いというわけではなく、現代では昔ながらの製法を捨てて、化学調味料や保存料に頼った製法が問題だということです。

感想まとめ

油の基礎知識から、どんなものが悪いのかいいのかまとめてあるので、一読する価値はありだと思います。ここでは書きませんでしたが、第5章の「体を劇的に変える油脂の取り方・選び方」は非常に参考になりました。

ただ本書のとおり、食品を選んでいくと現実問題かなり高額になるのかなと。そこらへんは著者も書いている通り、ほどほどにしておいていいのかもしれません。

危険なものと安全なものについての知識を頭に入れた上で、できる範囲で安全なものを選んでいく。気が付いたら、気を付ける。そんな程度でいいかもしれません。

完璧主義を目指すと修行・苦行の類になりますので。

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