2016年3月22日に、解熱鎮痛剤ロキソニンに対して厚生労働省が新たに腸閉塞などが重大な副作用として追加されたと注意喚起したと「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」のHPで発表されました。
ロキソニンといえば生理痛や頭痛薬として愛用している方も多いのではないでしょうか?ロキソニンは効果が高く、かつ副作用の少ない薬として広く使われています。
そんな中、ロキソニンの副作用に対してのニュース。かなり多くの方が不安に感じているようでネットではかなり話題になっています。
そこで、ここではロキソニンとその副作用についての基礎を解説します。
追加された重大な副作用
今回追加された重大な副作用を見てみましょう。
成分名 該当商品名 | 成分名 | 該当商品名(承認取得者) |
ロキソプロフェンナトリウ ム水和物(経口剤) | ロキソニン錠 60mg、同細粒 10%(第一 三共株式会社)、ロキソプロフェンナ トリウム内服液 60mg「日医工」(日医 工株式会社)他 | |
改訂の概要 | 「重大な副作用」の項に「小腸・大腸の狭窄・閉塞」を追記する。 | |
改訂の理由及び調査 の結果 | 国内症例が集積したことから、専門委員の意見も踏まえた調査の結果、 改訂することが適切と判断した。 | |
直近3年度の国内副作用症例の集積状況 【転帰死亡症例】 | 小腸・大腸の狭窄・閉塞関連症例 6 例 (うち、因果関係が否定できない症例 5 例) 【死亡 0 例】 |
新たに小腸・大腸の狭窄・閉塞が追加。直近の3年で小腸・大腸の狭窄・閉塞関連症例 6 例(因果関係が否定できない症例 5 例)です。
ロキソニンとはどういう薬?
ロキソニンは第一三共株式会社が開発・販売している非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。効能として頭痛や歯痛、生理痛など痛み全般、解熱作用、炎症を抑える作用があります。
ただし症状が起こった原因を治す薬ではなく、その原因に引き起こされた症状を緩和する対症療法的な薬です。
効能・効果 | 用法・用量 |
①下記疾患並びに症状の消炎・ 鎮痛 関節リウマチ、変形性関節 症、腰痛症、肩関節周囲炎、 頸肩腕症候群、歯痛 | 効能・効果①・②の場合 通常、成人にロキソプロ フェンナトリウム(無水物と して)1 回60mg、 1 日 3 回 経口投与する。頓用の場合 は、 1 回60〜120mgを経口 投与する。 なお、年齢、症状により 適宜増減する。また、空腹 時の投与は避けさせること が望ましい。 |
②手術後、外傷後並びに抜歯 後の鎮痛・消炎 | |
③下記疾患の解熱・鎮痛 急性上気道炎(急性気管支炎 を伴う急性上気道炎を含む) | 効能・効果③の場合 通常、成人にロキソプロ フェンナトリウム(無水物 として)1回60mgを頓用する。 なお、年齢、症状により 適宜増減する。ただし、 原則として 1 日 2 回まで とし、 1 日最大180mgを 限度とする。また、空腹 時の投与は避けさせるこ とが望ましい。 |
ロキソニンは痛みや炎症を引き起こすプロスタグランジン生合成抑制することによって、痛みや炎症を緩和することができます。
痛みの原因とロキソニン
人間の組織が破壊されたとき、血漿からブラジキニンが遊離します。このブラジキニンがポリモーダル受容器といって痛みを脳に伝える生理活性物質を活性化させて痛みを引き起こします。
侵害受容器のひとつで、機械的、化学的および熱刺激のいずれにも反応する。痛みを感じる主な感覚器官で、最初に感じるチクッとした痛み(一次痛)の後に現れる、ズーンとした鈍い局在性の不明瞭な痛み(二次痛)を伝える。
引用 ポリモーダル受容器
また一方でシクロオキシゲナーゼ(COX)という酵素がプロスタグランジンが生成します。そしてこのプロスタグランジンはブラジキニンによる発痛を増強させる作用があります。
つまりプロスタグランジンが多く生成されればされるほど痛みを感じやすくなるというわけです。
組織が損傷を受けた時、細胞膜にあるリン脂質はアラキドン酸に変わり、シクロオキシゲナーゼ(COX)の作用によってプロスタグランジンが生成されます。このプロスタグランジンの作用によって引き起こされる「痛み、熱、腫れ」などの症状が引き起こされる現象を炎症といいます。
細胞の損傷に合わせて、脳に信号を送ることで細胞の損傷を知らせる防衛機能の一種としてブラジキニンおよびプロスタグランジンが機能するということです。
損傷に気づかず、通常どおり活動を続けてしまっては、より大きな細胞の損傷を引き起こすことになるからです。
とはいえ、これが過剰に分泌されるようになると耐え難い痛みを引き起こします。そこで開発されたのがステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)です。
ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)の一種であるロキソニンには主にこのプロスタグランジンを生成する酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することにより、プロスタグランジンを生成を抑え、痛みや炎症を抑えます。
ただし、あくまで痛みを感じやすくする物質を抑える薬ですので、痛みの原因(細胞の損傷)を治す薬ではないため対処療法薬といわれています。
ロキソニンの副作用
プロスタグランジンには痛みを感じやすくする作用がある一方で、血管拡張、血小板凝集抑制、気管支拡張、腸管収縮、子宮収縮、腎臓の排泄促進、胃酸分泌の抑制、胃粘液分泌促進など人体にとって大切な機能も担っています。そのためプロスタグランジンを抑制してしまうとそれらの機能がうまく働かなくなる可能性があります。
その結果ロキソニンで指摘されている重大な副作用は以下です。
ショック、アナフィラキシー様症状、無顆粒球症、溶血性貧血、白血球減少、血小板減少、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis: TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、急性腎不全、ネフローゼ症候群、間質性腎炎、うっ血性心不全、間質性肺炎、消化管出血、消化管穿孔、小腸・大腸の狭窄・閉塞、肝機能障害、黄疸:肝機能障害、喘息発作、無菌性髄膜炎、横紋筋融解症
今回追加された重大な副作用は「小腸・大腸の狭窄・閉塞」です。
プロスタグランジンは消化器官の粘膜を保護する役割がありますので、プロスタグランジンの生成が抑制されることで粘膜が荒れやすくなります。その結果、腫瘍ができ、それがさらに進行した状態が小腸・大腸の狭窄・閉塞です。
プロスタグランジンは、実は胃腸の粘膜を保護する働きもしている。つまり、プロスタグランジンの生成を抑えてしまうと胃腸のバリア機能も弱くなり、粘膜が荒れやすくなるのである。
病院でロキソニンを処方される際には、空腹で飲まないように指示され、「ムコスタ(一般名:レバミピド)」などの胃薬を一緒に処方されることが多いのはそのためだ。
今回新たに加わった「狭窄・閉塞」は、胃の粘膜が荒れ、潰瘍ができ、さらに進行した症状である。潰瘍が進行して腸管が狭くなった状態を狭窄、さらに進行して腸管が詰まった状態を閉塞という。
ただし必要以上に怖がる必要はない
ロキソニンに重大な副作用が追加されたということで、大きく話題になりました。とくに「重大な副作用」と銘打って報じられましたので「何かとても危ない薬だったのでは?」という憶測が流れたからでしょう。
ただし、今回の副作用の追加はそれほど怖がる必要はありません。
そもそもロキソニンには以前から重大な副作用がいくつも列挙してありましたし、これに一つ事例が加わっただけです。重大な副作用はロキソニンだけでなく、ほぼすべての薬で存在しているものです。市販のかぜ薬も用法を間違えれば死亡するケースもあることはご存知でしょう。
また、今回の作用での報告事例は直近の3年間で6件であり、死亡事例もありません。そこまで数も多くありませんし、症状も重大というわけではなさそうです。
しかも今回の副作用は市販のロキソニンではなくて、慢性疾患に使われる医療用のロキソニンです。慢性疾患のための医療用のロキソニンの場合、長期にわたって継続的に薬を摂取しますが、市販薬のロキソニンの場合、生理痛が出たときだけ、頭痛が出た時だけというように単発的に使っていきますので市販薬の使用方法に比べて副作用が出やすい環境にあったといえます。
市販薬ロキソニンでは今回追加された副作用の報告事例はないようです。
今回の副作用の症例は、1件も出ていません。医療用のとは、そもそも使い方が違います。医療用では、慢性リウマチなどの治療で長期に渡って使うケースになりますが、一般用のは、頭痛や生理痛などになったら1錠飲むという使い方になるからです。
まとめ
ロキソニンの重大な副作用として「小腸・大腸の狭窄・閉塞」が追加された。ただし、今回の事例は市販用ではなく長期継続的に使用が一般の医療用のもの。またどんな薬にもつきものの副作用の一つが追加されただけのこと。
それほど恐れる必要や今回のニュースで使用を控える必要はなし。(医師の勧告や副作用発症、体質等によるものは別)
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